猫俳句大賞

猫俳句バックナンバー

11月17日週の猫俳句

薄目あけ
人嫌ひなり
炬燵猫

松本たかし

解 説

季語は「炬燵猫(こたつねこ)」で冬。

猫にまつわる冬の季語には、「かじけ猫」、「竈猫(かまどねこ)」等もあります。猫が凍えていたり、炬燵や火の消えた竈で暖を取ったりする姿を季語としたもので、いずれも寒さに弱い猫の冬らしい姿を本意としています。

掲句の猫は、のんびり炬燵で暖まっていたところを人間にうるさくされたか、炬燵布団を持ち上げられて瞬時に冷気を感じたのでしょう。「邪魔しないでよ」と薄目をあけ、すぐに目をつぶる猫の顔が想像されます。

人嫌いだなあなんて言いつつ、そんな素っ気ない猫の表情も人間側は大好きです。炬燵に猫がいてくれる冬のあたたかさ、きっと特別ですね。

11月17日週の猫写真

写真提供:神奈川県 さちよさん

 

10月31日週の猫俳句

境内に
シュレディンガーの
猫や月

髙田祥聖

解 説

提出〆:10月31日 午前9時00分【厳守】

この先生の【厳守】は本物の厳守。1分でも過ぎればアウトだと学生は皆知っている。私は夜通し課題に取り組んで、朝8時過ぎにようやくレポートを送信、安堵とともに眠り込んだ。

次に目が覚めたのは、夕日も弱々しくなった頃だった。ひどい空腹だ。ぼさぼさの髪の毛を適当にしばり、スリッポンを履いてアパートの階段を下りる。

近所の商店街を脇道に入ると、おいしいパン屋がある。私はその店のかぼちゃコロッケのサンドイッチが大好きだ(しかも夜は値引きされている!)。慣れた動線でサンドイッチを手に取ると、ビニール袋にジャックオランタンのシールが貼ってある。

今夜はハロウィンなのだと、その時初めて気付いた。

ハロウィンには、死者の霊が帰ってくるという。特に会いたい故人もいないけれど、実家の小さな庭によく来ていたキジトラ柄の猫のことだけ、時々思い出す。いつからか撫でさせてくれるようになって、いつの間にか庭に来なくなった猫。

もう10年以上会っていない。今更だけど、あの猫に私だけの名前を付ければよかったな、と思う。いつも《ネコ》と呼んでいたから。

パンを幾つか買って店を出ると、足もとをサッと小さな影が通り抜けた。どうしてか、私は一瞬でその影の正体が分かってしまった。

「ネコだ」

走るネコを追いかけ、私も曲がり角を曲がる。かなり距離が開いてしまったが、ネコは小さな神社に走りこんでいったようだ。境内は月の光が満ち、やたらと明るい。

賽銭箱の影になっているところ、きっとあそこにネコはいる。今、名付けるなら何て呼ぼうか。

10月31日週の猫写真

写真提供:埼玉県 potaさん