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撮影 庄司直人
第六回猫俳句大賞にご応募してくださった皆さん、ありがとうございました。今回はいつにも増して、ハイレベルの作品が寄せられたと思います。入選句を絞り込むのがとてもたいへんでした。まだまだ入選にしたい句がたくさんありました。どの句もそれぞれの角度で猫の存在感を見せてくれました。おもしろく、切なく、悲しく、楽しく、愉快に猫のさまざまな表情に出会うことができました。
堀本裕樹(俳人)
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すべての作品に賞を差し上げたいくらい、選考に残った作品は優劣つけがたいものばかりでした。私は俳句に関してはまったくの素人で、技術的な評価はできないので、「心を揺さぶった」そして「情景が浮かんでくる」を基準に選ばせてもらいました。
すべての句をじっくり読ませていただき、結果的に胸に残ったのは、きっと猫好きであろう皆さんの温かなまなざしと思いでした。
及川眠子(作詞家)
子と猫のこしよこしよばなし小鳥来る
佐々木 慈子
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子どもと猫はどんな「こしよこしよばなし」をしているのか。なんだか楽しそうだ。子は猫の言うことがわかるし、猫は子の言うことが理解できるようだ。互いに通じ合っている。そこに小鳥がやってくる。季語「小鳥来る」は秋に渡ってくる小鳥たちだ。これから子と猫のひそひそ話に加わりそうな小鳥たち。この句の大きさ、優しさに惹かれる。「こ」の韻を心地よく踏んだ、童話的な世界観がいい。
(堀本裕樹)
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猫俳句大賞受賞者には
副賞10万円と株式会社猫壱よりご提供の「バリバリボウル」を進呈いたします
霜夜の猫この世の息を吐き終へし
小野雅子
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半年ほど前に飼い猫を亡くした私にとって、この句はとても胸に刺さるものでした。寒い夜、ゆっくりと天に召されていく猫と、それを静かに見守る飼い主との光景が、まるで美しい絵のように目に浮かんできて、思わず泣いてしまいました。
(及川眠子)
猫俳句準賞受賞者には
副賞5万円と株式会社猫壱よりご提供の「バリバリボウル」を進呈いたします!
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- 冬日向猫の干物となりにけり横山雑煮
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冬の昼間の暖かな陽射しの中で、体や脚をうんと伸ばして心地良さげに眠っている猫の姿が目に見えるようです。それを「干物」という言い方で表現したのがとても面白いです。
(及川眠子) - 猫の来ぬベッドに春を知りにけり河添美羽
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猫はわかりやすく、寒くなれば膝の上やベッドに来て、暑くなれば飼い主の存在さえも無視し、家の中で最も快適な場所に避難。猫を飼っている人でなければわからない、そんな句だと思いました。
(及川眠子) - 猫の目のへへへとなりて冬温しオキザリス
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「へへへ」という表現がとても好きです。ぽかぽかの陽射しの中で、まったりと微睡んでいる猫の目は、本当に「へへへ」なんですよね。
(及川眠子) - 猫居れば独白ならず冬帽子西田克憲
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わかっているのか、わからないのか、それでも猫に話しかけてしまうのが猫飼いの常で。そして猫が鳴くたびに、どうしたの?とか、はいはいとか返事をしてしまうのもまた猫飼いの癖。ただ猫がいるだけなのに、孤独感がふわっと拭われていく、そんな心情にとても共感しました。
(及川眠子) - 子猫抱く野良の記憶の消ゆるまで佐々木慈子
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たぶん野良猫を保護したか、捨て猫を拾ってしまったんでしょう。子猫が抱えたつらい思い出を腕の中に受けとめて、もう大丈夫だよと何度も言ってあげている情景が目に浮かびます。とても素敵な句で、これを詠んだ人の優しさが伝わってきました。
(及川眠子) - 老猫の軽さ愛しき蝉時雨冬子
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子猫は当たり前に可愛いけれど、年老いた猫は実はもっと可愛い。一日中寝ていることが多くなり、体も小さく軽くなった老猫をそっと抱きしめる。互いに年月を重ねた分の愛しさをまるで包みこむように、蝉たちが鳴いている。とても美しい句だと思いました。
(及川眠子) - 月眺む猫が膝から降りるまでベンジャミン
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猫が膝にいるあいだ、仕事をしてようとテレビを観ていようと、結局は猫が気になってしまう。だから猫が膝の上にいる時間は自分に与えられた休息だと捉えて、猫の背中を撫でながら、窓辺の月でも眺めていよう。そんな飼い主の優しさがじんと伝わってきます。
(及川眠子) - 蜜柑から猫へとかわる箱の主住吉和歌子
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なぜ猫は箱や袋が好きなんでしょう。さっさと片付けてしまいたいんだけど、猫が居心地良さげにしているからそのままにするしかない。飼い主の苦悩?と気儘な猫の、温かな光景が浮かんできます。
(及川眠子) - ストーブを着けましょうかと猫に問ふキャプテンカーク
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私も「床暖を着ける?」とか「エアコン入れる?」とかつい猫に問うてしまいます。寒いだろうなぁと思ってのことなんですが、結局は自分が着けたいだけのこと。でも猫に問うことで、小さな罪悪感から逃れられたような、そんな気分にさせられます。同じく猫飼いとして、この句はとてもジワりました。
(及川眠子) - 猫の鈴鳴りやまぬ夜や窓の雪請関邦俊
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雪国の猫たちにとっては当たり前の冬の風景なのでしょうが、滅多に雪が降らない例えば東京などでは、猫たちにとっては雪は物珍しく、不思議な光景なのでしょう。うちの猫たちもずっと窓辺で雪を見ていたことがあります。寒いだろうからおいでと呼んでも、好奇心には勝てないんでしょうね。そんな猫たちの姿が可愛らしいです。
(及川眠子) - 家猫に成って初春持て余すほろろ
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野良猫だったが、誰かに拾われたのだろう。家猫になって衣食住(衣はいらないか)に困ることはなくなった。さて、初春(旧暦では新年のこと)を迎えてみると、暇でしょうがない。野良猫の頃は自由に動けたし、行きたいところにも行けたのに。しかたない、昼寝でもするか。季語は「初春」で新年。
(堀本裕樹) - 亡き友の愛猫抱いて秋深し山茶花
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友人が亡くなってからその家を訪ねたのか。残された家族と猫に対面して、友人の愛猫を抱かせてもらった。抱きながら、友人のことをいろいろと思い出す。家族から友人の思い出話を聞く。抱いている猫は温かい。その温かさに秋の深まりを感じる。猫の体温が友人のように愛おしい。季語は「秋深し」で秋。
(堀本裕樹) - 飼い主を寝かせて猫の夜長かな中屋光雄
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飼い主は猫と一緒に寝ている。猫にとっては飼い主を寝かしつけるつもりで一緒に蒲団に入っているようだ。先に飼い主のほうが寝てしまう。猫は飼い主が寝入ったのを見計らい、そろそろと蒲団から抜け出す。これから猫にとっての夜長が始まる。さてさて、何して過ごそうかにゃ。季語は「夜長」で秋。
(堀本裕樹) - 分校の入学式に親子猫吉沢道夫
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分校の入学式は人数も少なく、こぢんまりとしている。その分、とてもアットホームな雰囲気だ。たとえば新入生が七人だとする。そこに親子の猫も参列している。これは目立つだろう。まるで子猫も七人と一緒に入学するようなそぶりだ。親猫も見守っている。じわじわくる滑稽味。季語は「入学式」で春。
(堀本裕樹) - 菊の香や町屋の格子のぞく猫眠り猫
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この句は芭蕉の「菊の香や奈良には古き仏達」を思い出させる。なので「町屋の格子」は、奈良町の伝統ある町屋の格子を想像させる。その格子の隙間を猫が好奇心旺盛に覗いているのだ。何か物音がしたのか、気配を感じたのか。じっと格子の奥を覗きこむ猫。菊の香りが猫を上品に見せる。季語は「菊」で秋。
(堀本裕樹) - 猫が腹見せて憲法記念の日黒飛義竹
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憲法記念日は五月三日。「日本国憲法の施行を記念し、国の成長を期する」趣旨がある。そんな日に猫が腹を見せて寝っ転がっている。なんと平和な光景だろう。憲法なんて知ったこっちゃない感じだ。だが、憲法第九条に守られているともいえる。猫が自由に腹を見せて寝ていられる世の中であれ。季語は「憲法記念の日」で春。
(堀本裕樹) - 古日記捲れば猫のことばかり若狹昭宏
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年末になって、この一年書き続けてきた日記を改めて見返してみると、猫のことばかりが綴られている。まるで愛猫日記と言ってもいいくらい、猫と一緒に過ごした思い出に溢れているのだ。そして年の瀬のきょうもまた猫のことを書き記すのだろう。静かにひしひしと猫への愛情が伝わってくる句。季語は「古日記」で冬。
(堀本裕樹) - 海へ鳴く波止場の猫や明易し久保田 凡
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どうして波止場に立って、海に向かって猫は鳴いているのだろうか。そこを想像するだけで、いろんな物語が浮かんできそうだ。たとえば飼い主の漁師を待っているのか。そして漁に出たまま帰って来ないのか。ただ何かが恋しくて鳴いているのか。波音と猫の声が切なく混ざり合う。季語は「明易し」で夏。
(堀本裕樹) - 追えるところまで猫その先が夏平瀬 経
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猫が「行く春」を追っているのだろう。猫が追えるところまで春の行方を追っていった。しかし限界がある。もうここまでだ。「その先が夏」なのである。猫には夏の光がもうすぐそこに見える。朴訥なリズムでありながら、季節の推移を繊細に捉えた詩的な句。「夏」という語が入っているが、季感としては「夏近し」「夏隣」で春。
(堀本裕樹) - ジャズバーの朧夜猫が鈴鳴らすうけさん
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ジャズバーの朧夜はぼんやりとしてどこか官能的である。バーには鈴を付けた猫がいる。店の看板猫だ。その鈴が鳴る。スピーカーから流れるジャズと不思議に響き合う。ジミー・スミスの「THE CAT」だと付きすぎか。チャーリー・ヘイデンのアルバム「Nocturne」だとしっとり合うかもしれない。こんなジャズバーに行ってみたい。季語は「朧夜」で春。
(堀本裕樹)
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佳作の皆様には副賞として
クオカード1000円を
進呈いたします!
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税悦賞
ストーブを着けましょうかと猫に問ふ
キャプテンカーク
猫と暮らしたことがある方はこの台詞を言ったことがあるのではないでしょうか。光熱費を節約したい気持ちを上回る猫の圧ある顔を想像しました。猫と下僕の日常をあれもこれもと幅広く妄想させる句だと思います。
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qnote賞
老猫の軽さ愛しき蝉時雨
冬子
この句を読んで、去年の8月に20歳で亡くなった猫社員のふたばの姿が頭に浮かびました。軽くなってしまった老猫の愛おしさ、夏の季語がまさにふたばのことを詠んでいるようで、縁のようなものを感じました。
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アルゴ賞
亡き友の愛猫抱いて秋深し
山茶花
秋の夕焼に亡き友の愛猫を抱っこしながら、友との思い出に浸るシーンを想像しました。また自分が授かることになった友の愛猫への愛情や、ともに生きる覚悟、寂しさの中にも力強さが感じられる句だと思いました。
著作権・個人情報について
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「猫俳句大賞」スポンサーの皆様に、佳作受賞作20句の中から各1句を選出いただきました。
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