猫俳句大賞

第七回猫俳句大賞結果発表

第7回 猫俳句大賞結果発表

応募総数9977句!皆様ご応募ありがとうございました!

審査員総評

堀本裕樹

撮影 庄司直人

第七回猫俳句大賞にご応募してくださった皆さん、ありがとうございました。今回もさまざまな猫たちの表情に出会うことができて、とても和やかな気持ちになりました。楽しい句ばかりでなく、悲しい句、切ない句もありましたが、どれも詠まれた方の愛情や深い思いが伝わってきました。
入選にしたい句がたくさんあったので、とてもレベルの高い回だったと思います。猫俳句は永遠に不滅です。

堀本裕樹(俳人)

能町みね子(コラムニスト・文筆業)

猫で詠むとなると、定番になりがちな風景や状況がやはりあるようで、俳句に決して詳しくない私ですが、あまり詠まれないような状況のものを好んで選びました。
飼っていなくても猫の句を詠むことはできますが、飼っている(いた)人が持つリアリティの優位性はどうしても無視しがたく、ひいきしてしまったところがあります。

能町みね子(コラムニスト・文筆業)

猫俳句大賞

防空頭巾に仔猫入れて母は

有本典子

選評

戦時、不意に空襲が始まった。取る物もとりあえず防空壕に向かう際、防空頭巾に仔猫を入れて、母は走ったのである。「母は」という措辞から、子どもの視点で詠まれたことがわかる。母の切迫した表情が見えてくると同時に、爆撃音と仔猫の鳴き声が入り混じって聞こえてくる。絶対に仔猫の命を守るという母の強い意志が伝わってくる。この句の破調の韻律にも身を低くして駆ける急迫や命辛々逃げる緊張感が窺える。季語は「仔猫」で春。

(堀本裕樹)


猫俳句大賞受賞者には
副賞10万円と株式会社猫壱よりご提供の「バリバリボウル」を進呈いたします

猫俳句準賞

猫の子の大きい方を貰ひけり

中澤仁捷

選評

なぜこんなに惹かれるのか自分でも分からないものすごくシンプルな句。自分が猫を飼いはじめた日を思い出してしまうのかもしれない。そのときのどう転ぶとも分からない選択からその後の猫との運命づけられたような年数が紡がれていく、ビッグバンのような瞬間を点のようにとらえていてたまらない。

(能町みね子)

猫俳句準賞受賞者には
副賞5万円を進呈いたします!


佳作

新社員猫のことなら語る語る松尾重史
「わかる」とつい言ってしまう。何を話しかけても反応の鈍い新入社員、時代も育ってきた文化も違うから仕方ないよねと思っていたら猫のことはそんなに好きだったのかい!一気にこちらの心も開けて最高の気分、きっといい若者。「語る語る」の文字のはみ出し方にちょっと呆れたような気持ちも読み取れてかわいらしい。
(能町みね子)
ふだんはあまり自分から話をしない新入社員。まだ会社に慣れず緊張もあるせいだろう。だが、何かの拍子に猫の話になった。すると、とたんに熱く語りはじめた。猫好きなのだ。仕事のことでもこれくらい積極的になってほしいものだと思いながら先輩社員は、少し戸惑いつつ聞いている。「語る」のリフレインがよく活きた。季語は「新社員」で春。
(堀本裕樹)

秋の夜の猫は楕円の重さかな真砂光子
猫は楕円である。これは飼って親しくしていないときっと分からない。かつ、「楕円の重さ」なのである。ことに秋はそうなのである。なぜ春夏冬でなく秋か、説明しようと思えばできそうだけど野暮な気がしてあえて「なぜか」ということにしておきたい。「重み」だと中身に命が入りすぎている気がする。「重さ」という少しドライな表現に抑えたのもいい。
(能町みね子)

出窓には猫遠火事にして激し西田克憲
遠景に不穏さがあり、近景に呑気さが座っている。残酷なほどの対比。少し心配だけど、本格的な問題とは捉えない。とりあえず猫がのんびりできているからいいか、と思っている時の奥にあるごくわずかな種火のような不穏さ。心に妙にへばりつくいい句
(能町みね子)

招き猫打ち捨てられて冬の道寿郎
今回のすべての候補句の中で最も殺伐としていた。「猫」を題材としたときにこんな寒々しいものを詠めるのがすごいな、と思う。景色を本当の猫にしながら殺伐とした景色を詠むと酷薄さのほうに引っぱられてしまうけれど、つるんとした招き猫にしたことで殺風景さだけが浮き彫りになっていてすばらしい。猫の句なのに一切かわいくない(褒めています)。
(能町みね子)

亡き猫をよけて炬燵に入りけり夏迫杏
亡猫を描いた作品は多かったけれどこれがいちばん惹かれました。定位置があったんだね、炬燵の隅のほうにね。ずっとよけて入っていたから、よけないで入ることはその喪失が実感となって襲ってくるのでそんな怖いことはできない。私ももし猫を亡くしてしまったらそうなる。「けり」の余韻が低く響く。
(能町みね子)

猫の背を逆さに梳いて春の風邪豊澤壊殻
逆さに梳く、というのは飼っていないとなかなか思いつかない表現だと思う。猫の背を指で逆さに梳き、毛羽立たせ、またその逆に梳いて毛を寝かせる。風邪のだるさにまかせてそんな手慰みをする自分、そしてそれに無言でつきあってくれる猫。そういうところに猫の良さってある。
(能町みね子)

猫の寝息に絨毯の浮き沈み多々良海月
「うちもそう!」というだけで選んだような句で、すみません。床暖房のある居間の絨毯にうちの子はすぐ潜り込んじゃうんですよ。そしてすぐ寝る。整えたはずの絨毯はすぐボコボコにふくらみ、そのふくらみがわずかに上下している。人間はそこをうっかり踏まないように歩く。うちの子が絨毯に入りこむと、冬を感じます。
(能町みね子)

猫のものでないものなし冬館千船早帆
冬館、という言葉で、自宅や知人宅などではなく、森の中にひっそりと建つ古い洋館に猫が住みついているような光景を想像した。基本的に我が家でもすべては「猫のもの」であるけれど(すべての人間より猫がいちばん偉いのは自明であるため)、冬館とすることによって一気に絵本のような世界が思い浮かぶ。
(能町みね子)

ポップコーンの香る小春の猫の裏岩音寺秋吾
「猫の裏」って何なのか。最初、足の裏かな、と思ったけど、これは腹のことですね。もふもふしたお腹に鼻をうずめて“猫を吸っている”わけですね、きっと。猫飼いはよくやることですが、この匂いはよく「干した布団の匂い」などと形容されます。小春に加えてポップコーンと例えたことが大成功、お腹に顔をうずめるバカバカしさも相まって、軽く明るく楽しいです。
(能町みね子)

大試験けふ飼ひ猫の手術あり清水久磨瑠
かつては学期末試験に対して、学年試験、卒業試験を「大試験」といったそうだ。現代の大試験のイメージは、「入学試験」といったところだろう。自身にとって大切な受験と、飼い猫にとっての大事な手術。期せずして大一番が重なった。この試験がうまくいけば、きっと手術も成功するはず。そんな祈る思いも伝わってくる。季語は「大試験」で春。
(堀本裕樹)

雪しまき礼拝堂の猫の声吉田ルイ
雪と風が激しさを増している。そんな荒天に取り囲まれて、礼拝堂が凛と建っている。礼拝堂には猫の声がしている。がらんとした堂に猫の声がよく響く。どこからか紛れ込んできたのか、誰か猫を連れて避難してきたのか。とにかくこの雪しまきから、猫は守られているのだ。外の轟音と猫のか細い声が切なく響き合っている。季語は「雪しまき」で冬。
(堀本裕樹)

年金で猫のもの買う年の暮れちゅんすけ
思ったほど年金はもらえず、生活するのがやっとだ。決して贅沢はできない。そんな暮らしぶりの中、猫を飼っている。大事な相棒だ。家族同然の猫にも食べ物や日常のあれこれを買わないといけない。少ない年金からなんとか捻出しなければ。年も押し詰まって何かと出費が重なるが、猫にも何か美味しいものでも買ってやりたい。季語は「年の暮」で冬。
(堀本裕樹)

春の夢代々の猫集ひけりなかさとともこ
これまで何匹か、猫を飼ってきた。一匹ずつに思い出があり、それぞれに思い入れがある。どの猫も好きだった。そんな猫たちが春に見る夢の中に一堂に現れたのである。これはどうしたことだろう。本来ならありえないことが、夢の中では起こる。不思議だが、涙が出るほど嬉しい。しかし、夢が覚めたときの切なさったらない。季語は「春の夢」で春。
(堀本裕樹)

子は猫を猫は菜虫を見てゐたり歌井ぼうかる
この句の構図がおもしろい。子どもが猫を見ている。猫は菜虫を見ている。それだけの図柄だが、子→猫→菜虫と、だんだん小さなものへと焦点が絞られていくのだ。菜虫は大根や白菜などにつき、それを食べる青虫のこと。子は猫に興味があるし、猫は子よりも菜虫に関心がある。このバラバラな感じ、好奇心の赴くままがいい。季語は「菜虫」で春。
(堀本裕樹)

鎌倉の猫に連れられ夕涼み福岡祐輔
鎌倉へ旅に来たのだろう。鎌倉には海も山もあるが、この句の場面はどちらかというと、山側の路地が想像される。鎌倉の路地は美しい。汗をかきつつ散策していると、ふと猫が現れた。その後について、夕涼みにふさわしい場所に連れて行かれたのだろう。涼しい木蔭か、水辺か、それともお寺か。猫が鎌倉の風情を掻き立てる。季語は「夕涼み」で夏。
(堀本裕樹)

凍星や猫を抱えて充電す紅三季
「凍星」とは、凍ったような冷たい光を投げかける冬の星のこと。猫を抱きかかえている人間が「充電」しているというが、何を蓄えているのか。人間は電気で動いていないので充電は比喩である。おそらく猫から温もりをもらい、疲れや悲しみを癒しているのだろう。現世の厳しさを象徴するような凍星と、猫が対比的に詠まれている。季語は「凍星」で冬。
(堀本裕樹)

うらうらと猫の降りくる歩道橋錆田水遊
なんてことない場面であるが、不思議に惹かれた。春の太陽がほどよく眩しく明るい日、歩道橋の階段を猫が降りてきた。とんとんとんと軽やかに、リズミカルに。どこかを目指しているようであり、あてもないようでもある。この猫と行き違った人は、必ず振り返るだろう、その可憐さに。しかし、どこか淋しさも感じられる。季語は「うらうら」で春。
(堀本裕樹)

冬ぬくし靴下嗅いだ猫のかほ霜田あゆ美
暖冬だが、家猫はどこにも行かずに室内をうろついている。この靴下は履いているものか、脱ぎっぱなしのものか。ふと、猫が近づいて臭いを嗅いだ。瞬間、その顔がゆがむ。「なんだ、この臭いは……」というような表情を見せる。その顔が可愛い。愛嬌がある。「ぬくし」と「かほ」のひらがな表記が、柔らかく優しく呼応している。季語は「冬ぬくし」で冬。
(堀本裕樹)

QUOカード

佳作の皆様には副賞として
クオカード1000円
進呈いたします!

※審査員の選が重複した佳作についてはクオカードを2枚進呈いたします。