猫俳句大賞

11月18日週の猫俳句

新涼や
猫を撫でつつ
海の風

堀本裕樹

解 説

夏の恋は、あっという間に終わってしまった。おれは彼女と何度も訪れた江の島にやってきた。思い出の場所というには生々しいが、無性に海が見たい気分だった。

ヨットハーバーを通って、防波堤の端に建っている湘南港灯台まで歩き、腰を下ろした。遠くからは真っ白に見えた灯台も、近づくと意外に錆びている部分が多く、わびしい気分になる。あたりは釣り人が数人、アジやイワシ、タコなんかを釣っていた。9月の日差しは強いが、吹き抜ける海風には、かすかに秋が感じられた。

ふと気づくと、キジトラ柄の猫が、おれの近くに座り、毛づくろいをしていた。大方、釣り人からの分け前を狙ってやってきたのだろう。左耳が少し欠けているが、つややかな毛並みと鋭い眼光に、野良猫のたくましさを感じた。

「お前もひとりで来たのか」

キジトラ猫の体を、そっとさわってみると、嫌がるそぶりも見せず、目を細めて海を見ている。おれは、なんだかその猫と自分が、似た者同士のような気分になり、猫の体を撫でてやった。

「野良の一匹暮らしは、しんどいこともあるわな」

すると、背後からみゃあみゃあと小さな鳴き声が聞こえた。振り返ると、3匹の子猫が、キジトラ猫に向かって、駆けてくるところだった。キジトラ猫は、おれの手をすっと避けて、子猫たちのそばに移動し、一匹ずつ優しく毛づくろいし始めた。

「子持ちだったんや。裏切り者め……」

おれは、売店で買ったしらすせんべいを猫たちと分け合って食べた。一人で来る江の島も、なかなかいいもんだ。

11月18日週の猫写真

写真提供:埼玉県 理永さん