ご応募してくださった皆さん、どうもありがとうございました。今回は前回を遥かにしのぐ約15000句もの猫の俳句が寄せられました。新型コロナウイルスに揺れる世の中ですが、猫を詠む皆さんの情熱は揺るぐことなく、びしびし伝わってきました。特選と佳作合わせて十一句に絞り込みましたが、ほんとうはもっと入選を出したいくらい、いい句が多かったです。ビバ! 猫俳句!
堀本裕樹(俳人)
いいなと思う句が多くて好きな句が多くて可愛い句が多くて切ない句が多くて、とにかくみなさん猫が大好きだ!ということが判りました。選んだ句、全部何か書きたい!字数がない!悩んだ挙げ句佳作に入れられなかったんだけれど、「子猫もう地球征服しています」って句があって、多分これは正しい。征服されてます私達。
新井素子(小説家)
ダービーや
テレビの前に
猫二匹
兵庫県 森崎 重夫
日本ダービーをテレビ中継で見ている二匹の猫。それだけの絵である。だがこの風景をじっくり思い浮かべてほしい。猫が馬の競争を凝視しているのだ。猫はむろん馬券など買えるわけもなく、ただテレビ画面に惹きつけられている。夏の季語「ダービー」もよく効いているのだ。上五・中七の「ビ」、下五の「ヒ」のi音も響き合い、動詞が一つもない。猫俳句ならではのじわじわ来る滑稽味がいい。
(選者:堀本裕樹)
猫俳句大賞受賞者には
副賞10万円を進呈いたします!
春暑し
猫の開きに
手術あと
徳島県 中分 明美
一読、“猫の開き”に感動しました。猫の開き!ああ、状況がほんとに目に見える!
うちの猫もよくやってる。しかも、“手術あと”が、駄目おし。どでんと見せたお腹に手術跡があるんだねー、女の子で避妊手術ならいいんだけれど、どうか大病の手術跡ではありませんように。なんて、この猫さんの健康を祈ってしまいました。
(選者:新井素子)
猫俳句準賞受賞者には
副賞5万円を進呈いたします
- 高 英里花滋賀県
- 六日目の蝉を慈顔でなぶる猫
- 青井 春樹静岡県
- 花の闇猫は目のみで存在し
- 国枝 史朗兵庫県
- 猫なのでへつらひません春の雪
- 仲田 誠鳥取県
- 油虫仕留めし猫の野宿かな
- 丹下 京子東京都
- 右足で猫たしなめておでん食ふ
- 古澤 涼神奈川県
- 三割が猫の毛五年目の絨毯
- 湯川 潤愛媛県
- 猫眠るギターケースや黄落期
- 澤田 明世神奈川県
- 祖母白寿新年の写真猫四代
- 青柳 貴子東京都
- 夏負けて三段腹の猫愛でて
- 対馬 郁東京都
- ついて来る梔子の香よ夜の猫よ
- 江島 ゆう子神奈川県
- 自転車を見送る猫や花吹雪
- 同 上
- 夏虫にまだ気づかない溶けた猫
- 若狹 昭宏愛媛県
- 掛け違う釦に子猫落ち着かず
- 加藤 正子新潟県
- 猫五匹夜釣りの人を囲みをり
- 中里 とも子長野県
- まづ猫に見する合格通知かな
- 嵯峨 美沙妃兵庫県
- 白猫に金柑載せて鏡餅
- 門 未知子東京都
- 公園の猫にもメリークリスマス
- 福永 敬子北海道
- 柩から猫離れざる余寒かな
- 吉谷 淳子石川県
- 猫缶を小鍋でぬくめ秋時雨
- 彼方 ひらく岡山県
- なまはげと擦れ違ひたる猫の顔
佳作の皆様には副賞として
クオカード1000円を
進呈いたします!
- 六日目の蝉を慈顔でなぶる猫
- うわあああ、判るー。蝉さんなんて(成虫のみんみん鳴く蝉になっちゃったら)そんなに長生きできる生き物でもないのに。なのに、蝉をよくとってくるんだよね、猫。そんでもって……なぶる。“六日目の蝉”って、ある意味もう死にそうな蝉、だよね? それをなぶる。しかも、慈顔して。残酷なんですが、酷いんですが、これやるのが猫だ。“慈顔でなぶる”が、効いてます。
- 花の闇猫は目のみで存在し
- とても綺麗な句。私は、自分がエンターメント小説書いているせいか、今回の猫俳句、ある意味ストーリー性がある、意味が判る句ばっかり選んでしまったって自覚があるんですが、これは、意味やストーリー性がない、本当に綺麗な句。夜の中、猫の目だけが光っているんだ。花の闇の中で。綺麗だ。“目のみで存在し”が、いいと思います。
- 猫なのでへつらひません春の雪
- ほんとに意味だけの句です。でも、心から納得できちゃったので。猫がへつらわないのは、猫好き、猫嫌いにかかわらず、ほぼ、すべてのひとが納得できる事象だと思うんですが、「猫なので」ってやった処がいいんじゃないかと。きれいに納まっているし。まあ、“なので”を使ったのを、「説明である」って言われたら、そうかもしれない。けど、説明のどこが悪いんだー。(俳句のひとは、説明を嫌うけど。)でも、私は、この句、好きです。
- 油虫仕留めし猫の野宿かな
- あああー。判るー。猫がゴキブリとってきて、それ、銜えて飼い主に見せちゃったりして、猫さん本猫は褒めて欲しかった筈なのに、何故か飼い主さんは、褒めてくれない。いや、それどころか、「きゃああ」とか言って、ゴキブリの死骸と一緒に、猫さんも「あっちいけ」ってやられてしまった? だから、野宿? その情景を想像すると、笑えます。
いや、猫さんも飼い主さんも悪くないんだけれど、ありがちなんだけど、可愛い。 - 右足で猫たしなめておでん食ふ
- テーブルで、おでん食べてたら、足もとに猫さんが来たんだよね。おでんの匂いに誘われたのかな、それとも単に飼い主さんが好きで足もとに来たかっただけなのかな、そんな感じで。でも、飼い主さん食事中だし、もう、空いている足だけで、猫さんをちゃいちゃいして。御飯の邪魔をするんじゃないっていう気持ちでしょうか。わざわざ手を使うまでもないって気持ちでしょうか。もう煩いから足だけでいいよーって感じなのかも。
- 三割が猫の毛五年目の絨毯
- これはまさにうちのことです。うちのリビングの絨毯、もう十何年目かになってまして……勝手に“猫の毛の出る処”って呼んでます。私は電話があんまり好きではないので(用事があるのなら会えばいいと思う)、長電話しないんですが、知人にとても電話好きな方がいます。その方から電話があると、気がつかないうちに絨毯を指で擦っていて……したら、もう、いくらでも猫の毛が沸いてくるんだよね。掃除機、かけているのに。
なんでこんなに猫の毛が沸いてでるのか、本当に不思議で。うん、もう、うちの絨毯、何割かが猫の毛になっているのに違いない。 - 祖母白寿新年の写真猫四代
- 綺麗なストーリーだ。新年の写真って、年賀状かなあ。白寿を迎えたおばあちゃんの賀状に、それまでおばあちゃんの人生を彩ってきた猫さんの写真が使われている。それが四代。
白寿ってことは九十九だから、直系で血が繋がっている猫さん四代ではこれは無理。
ということは、おばあちゃんの人生には、猫さんがいなかった時もあり、違う猫さんがはいってきたこともあり、いろんなことが想像できる。いろんなことを想像しつつも、白寿のおばあちゃんを言祝ぎ、同時に四代の猫さんに思いを馳せる。とても素敵なストーリーだと思います。 - 夏虫にまだ気づかない溶けた猫
- 溶けた猫! ああ、夏の、のへーって床にねっころがっている、あの猫ね? あれはもう……あれはもう、溶けているよね?すでに猫としての実体がない。だから、目の前に虫がいたって気がつかない。この、“溶けた猫”が好きです。この猫さん、いつ虫に気がつくんだろう? あるいは、気がついても、溶けているから何もしないのかも。
- 掛け違う釦に子猫落ち着かず
- 可愛いっ! これはもう、そのまんま。可愛い。とにかく可愛い。人がブラウスなんか着る時、ついうっかり釦をかけ違う。けど、それを見ていた子猫は、なんか、ちょっと、目を白黒させて。人が、自分のボタンの掛け違いに気がつかず、そのまま服を着ちゃったりすると、猫の方が困ってしまう。とはいうものの、ひとはそれに気がつかず、そのまま服を着続けて。最終的に、最後のボタンを止めた処で、ひとは掛け違いに気がつくんですが、その前にそれに気がついていた子猫は、こんな時、も、どうしていいのやら。
- 白猫に金柑載せて鏡餅
- とても可愛い。というか……この“白猫”って、いくつ?
普通の猫は、金柑なんか載せたら文句言います。と言うか、“載せておいて”くれません。振り払います。なのに金柑を載せてくれるとしたら……すっごい老猫か、ほんとの子猫? 子猫なら、きゃああ、見事に鏡餅状態になるわ。ちっちゃい白猫の上に金柑。んでもって鏡餅。ああ、可愛い。一方、金柑を載せられても文句を言わない老猫さんなら、それはそれの味わいがある。ある意味、飼い主さんのことを眇めで見ていて、「ああ、また莫迦なことをやっている……」って思いながら、黙って鏡餅になっている猫。どっちにしても可愛い。
(選者:新井素子)
著作権・個人情報について
応募作品の著作権はすべて株式会社アドライフに帰属します。
応募に際して取得した個人情報は、受賞のご連絡や賞品発送等の「猫俳句大賞」の運営目的においてのみ利用し、それ以外の目的で利用することはありません。